JSBBA JSBBA-Kanto

公益社団法人 日本農芸化学会 関東支部

若手優秀発表賞 2014年度受賞者

ポスター発表の部

長谷部文人(東大・生物生産セ)

アミノ酸キャリアタンパク質を介して生合成される新規アミノ酸とその代謝産物の同定
長谷部文人1、白石太郎1、富田武郎1、石神健2、高ひかり3、藤村務3、西山千春4、葛山智久1、西山真11東大・生物生産セ、2東大院農生科・応生化、3順天堂大・医・アトピー疾患研究センター、4東京理科大・基礎工・生物工学科)
 一般に細菌はジアミノピメリン酸(DAP)を経てリジンを生合成することが知られているが、Thermus thermophilusは細菌でありながらα-アミノアジピン酸(AAA)を経由してリジンを生合成する。この生合成の後半(AAAからリジンへの変換)はアルギニン生合成におけるグルタミン酸からオルニチンへの変換に似ているものの、生合成中間体のα-アミノ基をLysWタンパク質のC末端のグルタミン酸残基で保護したのちに、酵素群LysXZYJKによる反応が進行することが我々のグループにより明らかになっている。一方、最近多数の放線菌ゲノム上に類似クラスターが発見され、アミノ酸キャリアタンパク質を利用する新規なシステムが多くの二次代謝化合物の生合成に関わることが示唆された。本研究では、放線菌Streptomyces sp. SANK 60404(以下SANK 60404株)を用い、LysWホモログが関わる二次代謝産物の生合成についての研究を行った。
 本研究により我々はSANK 60404株の有するLysWホモログが新規アミノ酸(2S,6S)-diamino-(5R,7)-dihydroxy-heptanoic acid(DADH)の生合成に関わることを明らかにし、この生合成に必要な遺伝子の同定と共に、大腸菌を用いた異種生産に成功した。さらにこれを中間体として生合成される新規天然化合物(Val-Pip)の同定も行った。

茂木亮介(筑波大・生物資源)

Rhodococcus属細菌の凝集体ライフサイクルについての解析
茂木亮介1、長田啓司2、稲葉知大2、中島敏明3、内山裕夫3、野村暢彦31筑波大・生物資源、2筑波大院・生命環境、3筑波大・生命環境系)
 凝集体は微生物の自己凝集によって形成される集団構造であり、3次元構造をなす微生物の集合体であるバイオフィルムの一形態として考えられる。集団を形成した微生物は、浮遊状態の微生物とは異なる挙動を示すことが知られている。微生物の産業利用においては、凝集体を形成することで、固液分離の容易化や担体としての凝集体の利用が期待される。したがって、凝集体の制御は重要であるが、凝集体の制御機構に関する知見はほとんどない。
 Rhodococcus sp. SD-74は当研究室で炭化水素資化細菌として単離されたグラム陽性細菌であり、液体培地中で粒径が最大で約10 mmにも及ぶ大きく強固な凝集体を形成する。この強凝集細菌をモデルとして凝集体の制御について解析を行った。SD-74株の凝集体形成を観察したところ、まず微小な凝集体が形成された後、それが集合・発達して大きな凝集体の形成が見られた。さらに培養を続けると凝集体の崩壊が観察された。また、凝集体崩壊後の培養上清中には、凝集体の崩壊を誘導する因子が存在することが示された。トランスポゾンによるランダムな遺伝子破壊により、この凝集体のライフサイクルに関与する遺伝子の特定を試みたところ、Nonribosomal peptide synthetase(NRPS)が凝集体の崩壊に関与していることが示唆された。NRPSの凝集体崩壊への関与を示唆する報告は、本研究が初めてである。

遠藤里佳子(東京農大・応生科・バイオ)

高温ストレス下におけるがん細胞の細胞周期・細胞死制御機構の解明
遠藤里佳子、針谷香澄、岡田康太郎、吉川博文、千葉櫻拓(東京農大・応生科・バイオ)
 がん細胞の高温ストレス感受性のメカニズムは未だ不明な点が多い。我々のこれまでの研究から、骨肉腫由来がん細胞株U2-OSは42℃において、G2/M期停滞、サイクリン依存性キナーゼCDK1の活性亢進、スピンドルチェックポイントの長期活性化後、M期後期に進まず、M期崩壊が起こることが分かっている。さらに、Mps1(紡錘体チェックポイントキナーゼ)阻害剤の添加により42℃におけるG2/M期停滞が解除されたことで、G2/M期停滞へのMps1の関与が示唆されている。そこで本研究では、CDK1とMps1に着目して研究を行った。42℃下でU2-OS細胞の両因子のキナーゼ活性を測定したところ、ともに異常な活性上昇が見られ、それらの活性上昇はMps1特異的阻害剤添加により抑圧された。また、42℃下のG2/M期でMps1を阻害することによりCDK1活性が抑圧されることを見出した。そして、DNA傷害センサーキナーゼATM/ATRの阻害剤添加により、G2/M期停滞とCDK1の活性亢進が抑圧されたことから、DNA傷害チェックポイントの下流にMps1、CDK1が位置することが示唆された。さらに、ATR下流のキナーゼChk1阻害剤の添加により、G2/M期停滞は解除された。以上の結果から、DNA傷害チェックポイント経路からChk1を介してMps1が異常活性化され、さらにCDK1活性を促進することが、42℃でM期特異的な細胞死を引き起こすメカニズムと考えられる。

口頭発表の部

尾花望(筑波大・生命環境)

外界の温度に対するウェルシュ菌のバイオフィルム形態応答
尾花望、山根由子、中村幸治、野村暢彦(筑波大・生命環境)
 多くの微生物は実環境中において細胞外マトリクス(EPS)に内包された集合体であるバイオフィルムを形成し、様々なストレスに適応し生存している。バイオフィルム形成は微生物の慢性及び院内感染との関連性が示唆されており、その理解は重要な課題である。グラム陽性偏性嫌気性芽胞形成性のウェルシュ菌は食中毒等の感染症の原因となる。本菌は芽胞のみならず、バイオフィルムを形成することにより、抗生物質や酸素に対する耐性を獲得する。近年、我々は本菌のバイオフィルム構造が外界の温度によって劇的に変化することを見出した。即ち、本菌は宿主体内の温度(37℃)では基質表面へ付着する密なバイオフィルムを形成する一方、環境中の温度(25℃)ではEPSに富んだ膜状のバイオフィルムを形成した。また、上述の現象には芽胞形成の主要制御因子であるSpo0Aが必須であった。Spo0A制御下には本菌の付着性に必須なIV型線毛遺伝子や細胞外タンパク質をコードするCPE0515遺伝子が見出され、これらの遺伝子もまた温度依存的なバイオフィルム形態変化に必須であった。以上のことから、本菌は外界の温度によって宿主の内外を認識し、Spo0Aを介して細胞の付着性及びEPS産生を制御することによって、バイオフィルムの形態を変化させ、周囲の環境に適応していると考えられる。

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