JSBBA JSBBA-Kanto

公益社団法人 日本農芸化学会 関東支部

若手優秀発表賞 2016年度受賞者

ポスター発表の部

伊藤英里子(筑波大学 生命環境科学研究科)

Sirtuin Eは糸状菌の対数期から定常期への転写の移行をグローバルに制御する
伊藤英里子、小田倉里佳、老沼研一、志水元亨、桝尾俊介、高谷直樹(筑波大院 生命環境)
 Sirtuinは真核生物に普遍的に存在するクラスIII histone deacetylaseであり、多様な遺伝子の発現をエピジェネティックに抑制する。本研究では、糸状菌Aspergillus nidulansのsirtuin E (SirE)が定常期に発現し、核に局在することを明らかとした。また、sirE遺伝子破壊株 (SirEΔ) では定常期にヒストンH3の9および18番目のリジン残基のアセチル化レベルが上昇した。さらに、SirEΔでは自己溶菌や分生子形成が阻害されることを見出した。トランスクリプトーム解析によって、SirEがこれらに関連する遺伝子とともに菌体外加水分解酵素遺伝子の発現を増加させることが示された。一方、SirEΔでは野生株に比べ、一次代謝系(炭素・窒素代謝および細胞壁の合成)に関与する遺伝子の発現が上昇していた。このうち、α-1,3-glucan synthase agsB遺伝子のプロモーター領域のヒストンは、SirEによって脱アセチル化され、その遺伝子発現が抑制されていた。また、SirEが制御する遺伝子群と、対数増殖期と定常期の間で発現が変化する遺伝子群には有意な相関がみられた。以上の結果から、SirEは定常期に発現し、ヒストンを脱アセチル化することによって、一次代謝から定常期の代謝への移行を転写レベルで制御する新たな因子であると考えられた。さらに、これらの遺伝子群は炭素飢餓によって発現が上昇する遺伝子群と一致した。これは、SirEが飢餓に応答して対数期から定常期への遺伝子発現の移行を制御するという我々の仮説と一致した。

作田郁子(東京大学 生物生産工学研究センター)

複数の受容菌候補の存在下で接合伝達の受容菌はどう決まるのか
作田郁子1、水口千穂1、小曽根郁子2、橋本絢子2、小松護3、新家一男4、池田治生3、岡田憲典1、野尻秀昭11東大生物工学セ、2JBIC、3北里大・北里生命研、4産総研)
【背景・目的】実環境でのプラスミドの挙動理解は細菌の進化適応過程を解明する上で重要である。本研究では、種々の細菌が混在する実環境下での接合伝達を想定し、供与菌1種に対し受容菌が同時に2種存在する接合(1:2接合)を行い、第2の受容菌候補の存在が接合伝達の成立に及ぼす影響とその機構の解明を目的とした。
【方法・結果】4種のプラスミドpCAR1、pB10、R388、NAH7と、Pseudomonas putida KT2440株およびPseudomonas resinovorans CA10dm4株を宿主として用い、液体および固体培地上での接合実験を行った。いずれのプラスミドも液体および固体培地上での1:1接合時は両株へ同程度接合伝達した。KT2440株を供与菌とした1:2接合においては、液体および固体培地上でKT2440株へ優先して接合伝達する傾向が見られた。それに対し供与菌をCA10dm4株とした場合、液体接合ではCA10dm4株への伝達が優先され、固体培地上では両株へ同程度接合伝達した。この「2種の受容菌を見分ける」機構の原因因子のうち、受容菌由来因子を探索するため、受容菌KT2440株ゲノムのBACライブラリーを受容菌CA10dm4株染色体上に挿入し、1:2接合時に同程度接合伝達が可能なCA10dm4株を取得した。現在までに300個のライブラリーから候補株16株を取得しており、候補株へ導入された断片をサブクローン化して活性を確認することで、因子の同定を行っている。

角悟(日本大学 生物資源科学部生命科学研究センター)

Burkholderia multivoransが有するClass III LitRの機能解析と光による葉酸合成の促進
角悟、高野(白鳥)初美、上田賢志、高野英晃(日大、生資科、生命セ)
 我々は、グラム陰性細菌Burkholderia multivoransにおける光依存的な転写誘導が、新しい光センサーと予想されるClass III LitRによって調節されていると予想している。しかし、LitRが要求する光アンテナ分子の化学的な同定には至っていない。そこで、アンテナ分子の同定を目的に、大腸菌を宿主としてLitR組み換え蛋白質を発現・精製したところ、340 nm付近に単一の極大吸収を有することが認められた。さらに、本蛋白質に光照射を行ったところ、この極大吸収は消失し、その後暗所へ移行したことによってその極大吸収は回復した。このことから、この極大吸収を持つと予想される化合物は光アンテナ分子であることが示唆された。次に、本蛋白質のDNA結合能をゲルシフトアッセイによって解析した。その結果、暗条件下で自身のコード領域上流に位置するオペレーターを含むプローブに特異的な結合が認められた。一方、光照射下における結合は弱いものであった。このことから、本蛋白質のDNA結合能は光照射によって変動することが推測された。また、本菌の葉酸合成遺伝子の一つがLitRの制御下にあることから、その細胞内における葉酸含量を葉酸要求性細菌によるバイオアッセイを用いて定量したところ、光照射によってその含量が増大することが明らかになった。このことから、LitRを介した合成遺伝子の転写活性化が葉酸合成を促進していると考えられる。

知久和寛(日本獣医生命科学大学 応用生命科学部)

二糖類の中性・加温条件下でのピーリング反応による分解機構の解析
知久和寛1、和田真海1、厚地春伽1、細沼亜里沙1、小野裕嗣2、吉田充11日獣生科大・応生・食科、2農研機構・高度解析セ)
【目的】一般にグリコシド結合は中性領域では安定であると思われているが、一部のオリゴ糖が中性条件下でも加温により比較的速やかに分解する現象(ピーリング反応)を我々は観測している。本研究では、この中性付近のピーリング反応によるオリゴ糖の分解機構をより詳細に調べることを目的に、1位から6位まで種々な結合様式が存在するグルコース二分子が結合した二糖類を中心に、加温処理下での化合物の変化を解析した。
【方法】各種二糖(50 mM)を100 mMリン酸塩緩衝液(pH7.5)に溶解し、90℃で0~12時間加温後、その経時変化を調べた。各種反応液中の化合物の濃度は示差屈折計を伴ったHPLC法、遊離したグルコース濃度はGOD-POD法、反応生成物の分子量はLC-ESI-MS/MS法を用いて測定し、分子構造はNMR 法を用いて解析した。
【結果】グルコースの1位同士で結合した非還元性の二糖は12時間の加温処理後も全く分解しなかった。2位に結合した二糖はアルドース-アルドース間互換異性化反応により新たな二糖を生成したが、グルコースの遊離はほとんど見られなかった。3位に結合した二糖は3位のC-O結合の開裂反応により、1分子のグルコースを遊離しつつ分解した。4位もしくは6位に結合した二糖はアルドース-ケトース間互換異性化反応により新たな二糖を生成したが、生成した二糖が不安定なため、グルコースを遊離しつつ分解した。

口頭発表の部

井上紗智(筑波大学大学院 生命環境科学研究科生物資源科学専攻)

スクロースはStreptococcus mutansの細胞外DNA放出を誘導する
井上紗智1、稲葉知大2、尾花望3、八幡穣4、泉福英信5、野村暢彦31筑波大院生命環境、2産総研環境管理、3筑波大生命環境系、4Department of Civil, Environmental and Geomatic Engineering, Institute for Environmental Engineering, ETH Zurich、5感染研細菌第一部)
 Streptococcus mutansはスクロースを基質に不溶性グルカンを合成し、それを主成分とする強固なバイオフィルム(BF)を形成することでう蝕を引き起こす。我々の研究グループはこれまでに、スクロースが不溶性グルカン産生のみならず、細胞外DNA(eDNA)放出を誘導することを発見し、eDNAがBF構造を物理的に補強することを明らかにしてきた。つまりeDNAはS. mutansによるう蝕発症に重要な因子であるといえる。そこで本研究は、スクロースによるeDNA放出誘導の分子メカニズムの解明を目的とした。スクロースによるeDNA放出誘導に関与する遺伝子を特定するため、RNA-seqによる網羅的な転写産物解析を行った。その結果スクロース存在下において、いくつかの酸耐性制御に関与する複数の遺伝子の転写量変動が確認され、eDNA放出と酸耐性の関連が疑われた。そこで酸耐性試験を行った結果、スクロース存在下においてS. mutansの酸耐性の低下が認められた。S. mutansはスクロースを基質に乳酸産生を行い、周囲のpHを低下させることが知られる。つまりスクロースによる周囲の酸性化と酸耐性低下がS. mutansの細胞死を引き起こし、その死細胞に由来するeDNAが放出される可能性が示唆された。この一部個体の細胞死を起因とするeDNA放出によるBF構造強化の結果、歯表面でのBF残存率が向上し口腔内における集団の生存率が高まると考えられる。

横山奈央(埼玉大学 理工学研究科)

グラム陽性細菌のキメラ型鉄硫黄クラスター生合成系:破壊株の構築と異種間相補解析
横山奈央1、寺畑拓也1、丸山ちひろ1、葛山智久2、朝井計1、高橋康弘11埼玉大・理工、2東大・生産工学研究センター)
 鉄硫黄(Fe-S)タンパク質は、Fe-Sクラスターをコファクターとして持つタンパク質の総称で、エネルギー代謝から遺伝子の発現制御に至るまで様々な生命活動に関わっている。これらFe-Sタンパク質の機能を支えているのが、Fe-Sクラスター生合成系である。大腸菌では、2つのマシナリー(ISC/SUF)が独立して機能することが知られている。一方、枯草菌などグラム陽性細菌のゲノムには、suf様オペロンがコードされており、このオペロンの産物がFe-S クラスター生合成マシナリーとして機能すると考えられている。興味深いことにこのマシナリーでは、大腸菌ISCマシナリーの成分(IscU)と、大腸菌SUFマシナリーの4成分(SufB,C,D,S)とのキメラ構成という特徴が見られる。しかし、枯草菌suf様オペロン(sufCDSUB)内の5種類の遺伝子はどれも生育に必須なため、これまで遺伝学的な解析は進んでいなかった。
 本研究では、枯草菌が持つFe-Sタンパク質の必須性を回避するように代謝改変を施すことにより、枯草菌のsuf様オペロンを破壊することに初めて成功した。次に、構築した破壊株に、大腸菌のiscsufオペロンの関連遺伝子を導入し、相補実験によって異種生物間での互換性を検討した。その結果、枯草菌のSufUは意外なことに、構造の類似している大腸菌IscU(Fe-Sクラスター新規形成部位)ではなく、大腸菌SufE(硫黄原子のキャリア)と同様の機能を果たすことが明らかになった。

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